婚後の話 1

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ページ:16ページ

写真 新井五差路

「婚後の話」冒頭
◇籠の目

南富山行きの路面電車の窓に映る山々が雪を冠のようにして空との境界線をはっきりと分かち、私たちを見ていた。12月の空はすっきりと青く、東京よりも水分を含んだ空気にほっとする。私たちは富大で電車を降りた。新井五差路さんの歩幅が大きく、気づいたらずっと先にいて私を呼んでいた。「はやめに行かないと、雨が降ったらみれませんよ」と、立山が見えなくなる心配をしてくれた。呉羽山の民芸村から頂上まで、まだあと15分はかかりそうだ。


私は東京で夫が私に「あげた」という、籠を探していた。私は富山に仕事の予定が立ったところで、急にその籠についてを思い出した。私たちはとても現代的な夫婦で、仕事では別々の苗字を使い、指輪などもいらず、つまりモダンな生活を志向した。ただ、名前や所有物についてはトラッド(旧社会)批判もあったが、「墓を守って行く」といったことについては、金藤はとても興味があった。それは歴史的、民俗学的な興味からであり、日々、手製の神棚に手を合わせて自身の心を安らがせていることによる、「習慣的な癒し」に後押しされた魅力であった。私も夫も、それぞれが自由だ。しかし、それは私たちらしく無い、とても旧社会的なものの裏返しばかりを求めてしまうが故の振る舞いなのではないか?「籠」は、彼の曽祖母のものであったらしい。嵩張るものをどうして…と思ったが、物を入れるのに役立つし、中がすっかり見えるような目籠であったから、持ち運ぶときこそ捨ててやろうと思ったものの、部屋の畳の中にあると、なんでも捨ててしまう彼でも、ついに捨てずにおいてしまったらしい。私たちはとても自由で、自立していて、だからこそ死んだ時にどちらの墓に入るか?といったような、避けては通れないはずの議論が、いつも見えなかった。彼の家の一番古いものといえば籠だったそうだ。

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